記事022 鳥海山の豊かな水を巡る~その6=落伏清水と古刹「永泉寺」

月光川(がっこうがわ)蒸留所のウイスキーの出発点ともいえる美味しい水とつながる鳥海山麓の湧水や滝、渓谷や池など豊かな水を訪ね歩いてみたいと思います。第六弾は「落伏清水(おしょうしず)」と「永泉寺(ようせんじ)」です。

落伏清水は前々回に紹介した牛渡川の南側を流れる滝渕川水系の湧水です。滝渕川は鳥海山の五合目に当たる標高1000メートルに位置する大物忌神社中ノ宮の脇が源流です。大物忌神社は鳥海山そのものをご神体として崇められてきて、主祭神として大物忌大神(おおものいみのおおかみ)が祀られています。本社は山頂に鎮座し、麓に「口ノ宮」と呼ばれる里宮が吹浦と蕨岡の二カ所にあります。本社にある本殿は、伊勢神宮と同じく二十年毎に建て替える式年造営の制となっており、現在の本殿は2017年に造営されました。

そして、その中間にある中ノ宮は山頂の本社と里宮の中継地点として信仰を集めており、冬場、本社に行くのが難しい時期にはこちらに参拝する人が増えます。静寂に包まれた神秘的なパワースポットになっていて、そんな中ノ宮を源流としている滝渕川の湧水ということもあり、落伏清水には美味しいというだけでなく、飲めばご利益があるとして、水を汲みに来る人が後を絶ちません。

湧水は滝渕川に面した斜面から湧き出しています。道路わきの岩の割れ目からこんこんと清冽な水が流れ出てきています。水底からも切れ目なく水が噴き出していて、水面は常に波紋が広がっています。ペットボトルを持参して水を汲む人が引きも切りませんが、柄杓も用意されており、誰でも、湧水をいただくことができます。口に含むととろりとしており、思わず、「まろやかだなあ」とつぶやいてしまいました。ここの湧水は以前紹介した神泉の水とは違って、洗い物は禁止で、飲用のみとされています。地元の人たちはきちんと守っているようで、汚れは一切ありませんでした。

湧水のある落伏地区は今は十数世帯が住む小さな集落ですが、集落の中心部にある永泉寺(ようせんじ)は鳥海山南麓の地域では有数の古刹で、古くから多くの参詣客でにぎわってきました。湧水を訪れたら、是非、寄ってみたいお寺です。

寺は7世紀に役行者が鳥海山の中腹に開いた道場がルーツと言われ、823年に慈覚大師が寺を建立。それを曹洞宗大本山総持寺で修業した優れた高弟たちの一人である源翁和尚が1382年に開山した寺です。表参道となる石段はびっしりと苔に覆われており、両側に聳える杉や松の古木と相まって幽玄な雰囲気を醸し出しています。途中に立ちふさがるかのようにして立つ仁王門は鮮やかな朱色で、緑の苔や木々とのコントラストが圧巻です。仁王門の天井には見事な格天井(ごうてんじょう)が施されており、荘厳なムードが漂っています。

有形文化財が数多くあるお寺ですが、境内の奥まった場所にある石造りの九重層塔が寺の最大の見どころです。寺の左手の斜面を登っていくと中腹に佇んでいました。高さ2.62メートルで砂岩でできた塔で、上に向かって庇となる方形の部分が少しずつ小さくなるように造られており、均整の取れた美しいフォルムでした。塔は1601年に亀ケ崎城(現在の酒田市内にありました)の城主になった志村光安氏がのちに亡くなり、その供養のために家臣たちが1611年に建立したものです。塔の基壇には方位を守護する四智如来が彫られ、400年余り経ったいまでも、厳かな雰囲気を漂わせていました。