記事017 鳥海山の豊かな水を巡る~その4=牛渡川

月光川(がっこうがわ)蒸留所のウイスキーの出発点ともいえる美味しい水とつながる鳥海山麓の湧水や滝、渓谷や池など豊かな水を訪ね歩いてみたいと思います。第四弾は「牛渡川(うしわたりがわ)」です。

鳥海山に降った雨や雪は溶岩質の山にすぐに吸い込まれて伏流となります。このため、山頂の高さは2236mもあるのに、川になって現れるのは一番高い場所でも約1600m、牛渡川はわずか700mの中腹が源流です。そして、無数の湧水を集めながら4kmに渡って流れ下り、最後は河口ぎりぎりで月光川に合流して海に出ていきます。

その美しい清流を見るには、以前紹介した丸池様と同じ、鮭の採集&孵化場の脇にある駐車場に車を停めます。このあたりは、鳥海山が噴火して流れてきた溶岩の先端部分で、牛渡川はその先端部分を横切るようにして東から西に流れています。このため、川の山側の川底からは無数の湧水があって、川の水量は豊富です。一年を通して毎分20トン(1日にすると約3万トン)の水が流れています。人が使う水道の量は1日約220リットル(風呂、洗濯、トイレを含む)だそうで、単純に計算すると牛渡川の水で13万5000人が生活できる勘定です。驚きですよね。

 さて、川は片側(平地側)が護岸されており、幅3~4m、深さ1~2mで、川底までくっきりと見え、川底の小さな石がころころと転がっていく様子まで観察できます。角度によっては光の加減でエメラルド色にも輝く場所もあります。この川には清流を好む絶滅危惧種のイバラトミヨやカジカなども生息しているそうです。

また、清流を好む常緑の沈水植物、バイカモも元気に暮らしています。沈水植物とは根が水底の土壌に張り、植物全体が水の中で生育するもので、バイカモはその代表。漢字では「梅花藻」と書くように、梅の花に似た小さな白い花をびっしりと咲かせます。6~7月が花の見ごろで、月太郎もちょうど開花の時期に訪れたことがあります。可憐な白い花にうっとりしました。皆さまも開花時期を狙って訪れてみてはいかがでしょうか。

清流が好きなのは人間だけではありません。牛渡川には海から鮭がたくさん遡上してきます。秋から冬にかけて鮭が産卵のために遡上してくるのは太古の昔から変わらず、この川沿いには縄文時代から集落があって、遡上した鮭は貴重な食料になっていたようです。

しかし、江戸時代後期には乱獲のため、鮭の遡上が減り、このため、庄内藩主が鮭の資源保護を命じました。そして、明治時代の終わりに牛渡川に孵化場ができ、1951年に箕輪鮭孵化場が完成しました。牛渡川と奥の丸池様を見物に行くための駐車場の真正面に建物が並んでいます。

9月下旬から鮭の遡上が始まると、孵化場の操業が始まります。捕獲した鮭はすぐに裏手にある孵化場で人工授精を施し、ある程度の大きさの稚魚に育ててから放流します。牛渡川から引き込んだ清冽な水が鮎の稚魚をすくすくと育ててくれます。この孵化場は河口から約3キロと短く、まだ体力を消耗していない“新鮮な”鮭が採れるので、孵化もやりやすく、日本海側の鮭の孵化施設としては有数の規模を誇ります。

鮭の遡上が近づいた秋の日に訪れると、鮭の捕獲に備えて川の清掃や、川の水を孵化場に引き込むための、設備のメンテナンスにいそしむ人たちに遭遇しました。10月から1月にかけては孵化場でオスの鮭といくらを即売しており、割安に買えると多くの人たちが買いに来るようですが、近年は鮭の遡上数の減少が著しく、即売していない日も結構あるそうです。