2025年4月 記事015 職人たちの横顔~藤田寛史さん
2023年秋にウイスキー造りを始めた月光川(がっこうがわ)蒸留所では、いま、10人ほどの人たちが、日々仕事に励んでいます。生まれてまもない会社だけに、職人たちはそれぞれ異なる経歴を持ちながら、ここに集まり、美味しいウイスキーを飲み手に届けようと日々力を合わせて精進しています。そんな彼らの横顔に迫ります。
スポットを当てる三人目は樽詰め担当の藤田寛史さんです。
藤田さんは1983年、酒田に生まれました。小学校から高校までバレーボールに情熱を注ぎ、将来は体育の教師にでもなろうかな、と考えたこともありました。しかし元々、物づくりが好きだったため、高校卒業後、地元の建設関連の会社や精密備品を作る会社に勤めていました。仕事ぶりが認められて責任ある仕事を任されたりもしたのですが、「40歳になった時、このまま定年までこの会社にいるのはなんとなく面白くないな。別の仕事をしてみたいという気持ちが膨らんだのです」と藤田さんは当時を振り返ります。

実は藤田さんはディスティラリーマネージャーの長谷川さんの高校時代の同級生で、卒業後もたまに会って、近況を語り合ったりしていたのですが、楯の川酒造に長谷川さんが勤務するようになると、好きな日本酒を買いがてら、会って話すようになります。そして、近況を語る段になって、藤田さんが「今の仕事を辞めようかなと思っている」と話す一方で、長谷川さんが「今度、ウイスキー事業を立ち上げる」と聞かされたのです。
その時は「そうなんだ」ぐらいの返事をした藤田さんですが、いざ、会社を辞める段になって、その話を思い出し、長谷川さんに連絡すると、まだ、社員を募集していることを教えてくれたのです。年齢的にもう少し若い人を会社は望んでいるのではないかと心配もしたのですが、晴れて採用が決まり、2024年2月に月光川蒸留所に入社しました。
小さな蒸留所ですから、ひと通りすべての作業を学び、なんでもこなせるようになりました。1年が過ぎた頃、樽詰めの担当者に空きができて、藤田さんに声がかかりました。蒸留された原酒を樽に詰めて熟成庫に運ぶのが仕事の中心ですが、それ以外にも樽の位置を変えたり、熟成具合をチェックしたり、さらには樽の漏れがないかを確認するなど、多くの仕事は静かな熟成庫で一人の作業ですが、「自分には合っています。原酒を詰める樽の種類が多くて、それぞれの樽ごとに漂ってくる香りも異なって、ウイスキーの奥深さが段々面白くなってきたところです」(藤田さん)。

そんな藤田さんは月光川に入るまでは、お酒は日本酒やビール、焼酎がメインでウイスキーは苦手だったのだそうです。「ひとくち飲むと、なんというか飲みづらくて、喉を通っていかないんです。このため、ずっと敬遠してきたのですが、月光川に入って、自分達で蒸留した原酒を飲んでみると何かが違ったんです。なんというか、喉をつるりと滑るようにして入っていき、驚くほど飲みやすくて美味しい。おかげでウイスキーが飲めるようになりました」と藤田さん。
ウイスキーイベントにスタッフとして行った際、藤田さんが感じたことに賛同するお客様がいらっしゃったそうで、「蒸留したての原酒でさえ美味しいと感じるのだから、熟成庫で眠っている原酒がさらに年月を重ねて円やかになったら、どれだけ美味しくなるんだろう、と数年後の最高の一杯を想像する日々です」と藤田さんは笑っていました。