2025年12月 記事007 職人たちの横顔~塚形直記さん

2023年秋にウイスキー造りを始めた月光川(がっこうがわ)蒸留所では、いま、10人ほどの人たちが、日々仕事に励んでいます。生まれてまもない会社だけに、職人たちはそれぞれ異なる経歴を持ちながら、ここに集まり、美味しいウイスキーを飲み手に届けようと日々精進しています。そんな彼らの横顔に迫ります。
スポットを当てる一人目はセールスマネージャーの塚形直記さんです。

塚形さんは1983年酒田市生まれの42歳。小学生時代からずっとサッカーに夢中で、中高時代はキャプテンを務めていたほどでした。高校卒業後もサッカーを続けたくて、埼玉県のサッカーの強豪だった大学へ進みました。ところが、大学3年の時に腰を痛めてしまい、サッカーを続けることができなくなりました。これを契機に「サッカー以外にやりたかったことをやろう」とアルバイトにいそしみます。その時、一番面白かったのがアパレルショップでのバイトでした。「お客様と直接会って話をし、一番似合う服を選んで買ってもらうという仕事が面白くて仕方がありませんでした。ずっとこの仕事をしたいと考えていました」と塚形さん。大学卒業とともにバイト先の会社に入り、メンズセレクトショップで働きます。ただし、塚形さんは「大学まで行かせてもらったのに、就活もせずにバイト先に入社したんで、親には申し訳ないな」という気持ちが強く、「3年で店長になれなければ酒田に帰る」と宣言してしまいます。そして、残念ながら店長には届かなかったのだそうで(会社はあと半年で店長にする計画でいたと後で聞いたそうです)、会社を辞めて酒田へ帰りました。

酒田で仕事を探し、見つけたのが家具メーカーのデザイナー募集でした。ファッションとインテリアは近いものがあり、塚形さんも椅子にこだわりがあって、すぐに応募して採用されました。3年間は必死に勉強して図面ソフトを操れるように。4年目からは特注家具の部門に移り、得意先を訪問して仕事を取ってくる営業活動で実績を上げていきました。以後、十数年、仕事を続けて、会社の幹部へと昇っていくことを実感していた矢先の2022年に思いがけない連絡を受けます。幼馴染で、ずっと友達付き合いを続けていた友人からでした。

その友達というのが、現在、月光川蒸留所の実質的な責任者でディスティラリーマネージャーの長谷川千浩さんです。長谷川さんは月光川蒸留所の親会社の楯の川酒造にいましたが、月光川の立ち上げという特命を受けて、早速、塚形さんに電話をし、「ウイスキー造りを始める。営業も必要になってくるけど興味はないか?」と誘ってくれたのでした。「今の仕事に満足していたので、最初は断るつもりでした。でも、熱心に誘われたことに加えて、自分の年齢(40歳)を考えると、これが新しいことをやるなら最後のチャンスかもという気持ちが膨らんで、気づいたら、楯の川酒造の社長に会わせてほしいと自分からお願いしていました」(塚形さん)。

とんとん拍子で入社が決まり、2023年秋の蒸留開始直後は製造現場にも入っていましたが、徐々に営業の仕事が増えてきて、「気づいたら営業専任になっていました。人と会って、物を売るのが向いていると社長に見破られたのだと思います(笑)」。今は、取引先確保のために全国の酒販店を巡り、ウイスキーのイベントには必ず月光川のブースを設け、そこには常に塚形さんの姿があります。塚形さんは、「モルトウイスキーがリリースできるのはもう少し先ですが、美味しいウイスキーができるよう日々努力をしている私たちの情熱を伝えようと頑張っています」と話していました。

ちなみに二人の息子さんはどちらもサッカー少年で、週末には「いずれ父を超えるんだぞ」と声援を送るパパでもあります。