2025年11月 記事004 鳥海山の豊かな水を巡る~その1=丸池様

おいしいウイスキーを造るために月光川(がっこうがわ)蒸留所は日々、努力をしていますが、蒸留所のある鳥海山南麓に広がる庄内平野の豊かな自然も、おいしいウイスキーを育てるのに欠かせない存在です。

特にウイスキーの味を左右する水は、豊富で良質な水を確保できる鳥海山麓の風土は理想的です。標高2236mと東北地方では2番目の高さを誇る鳥海山には冬はたくさんの雪が、それ以外の季節も季節風のおかげでたくさんの雨が降り、それらが鳥海山の内部にしみこみ、地下水や伏流水となって流れ下り、美しい渓流や滝を作り、各所に湧水を生み出し、地域の人々の生活を支えています。月光川蒸留所もこうした水の恩恵を受けています。

月光川蒸留所のウイスキーの出発点ともいえる山麓の湧水や滝、渓谷や池などの豊かな水を訪ね歩いてみたいと思います。第一弾は「丸池様」です。

月光川が日本海に注ぐ河口近くにあるJR吹浦駅を降りて、川沿いに歩くこと15分ほどで車が10台ほどが停められる広場があります。隣には鮭の孵化場があり、その脇を抜けて林の奥へと進みます。ほんの数分で左手に水面をキラキラと輝かせた小さな池が現れます。これが丸池様です。

池は直径が約20m、水深は3.5m。幻想的なエメラルドグリーンの色が魅惑的ですが、太陽光線の差し込み方で微妙に刻一刻と色合いを変えていきます。池に注ぐ川はなく、池の底に目を凝らすと、底からポコポコと水が湧いています。湧水だけで出来上がった池です。

一年中池の水温は11度前後に保たれているため、水中に沈んだ倒木でさえも、なかなか朽ち果てず、龍のごとく地底にひそんでいます。そんなこともあって、池全体が丸池神社のご神体です。

静けさが支配する池のほとりには社(やしろ)があります。神社は地元の人たちに丸池様と呼ばれ、祭神は宗像三女神だそうです。本殿は池を拝むように配置されており、正面の2本の柱の間隔が約1.8mの小さな社です。夏の例祭では、本殿向かいの拝殿で、獅子舞と巫女舞が奉納されます。

池は鳥海山に宿るという神が手を洗う池と言われ、水中には瑠璃の玉という宝物があって、この玉はご機嫌の時は水面に浮かんできますが、もし池にごみなどを投げ込めば、にわかに大風が吹いて田畑を損なうような風水害を及ぼすので、池を大事に扱えという伝説があるそうです。鳥海山の七合目付近にある火口湖の鳥海湖と丸池の水脈は地中深く通じているという言い伝えも。

また、平安時代後期の前九年の役で、安倍宗任と戦った源氏の鎌倉景政が宗任に左の眼を弓で射られながらも宗任を討ち取り、その後、この池で眼を洗ったところ、池が真っ赤に染まったと言います。以来、池に棲む魚は景政に敬意を表するため、すべて片目なのだという言われも残っています。片目の魚伝説というのは戦国時代に多くの地域に作られたようですが、丸池様の片目の魚の話はなかでも有名だそうです。

この日は平日にも関わらず、多くの観光客が池の見物にやってきていました。三脚をたてて、光の加減で最も美しい色が現れるシャッターチャンスを粘り強く待っている中年の男性も。地元の人の話では「以前は池まで行く遊歩道はなく、樹木も今以上に生い茂っていて昼なお暗い雰囲気が不気味で、子供たちも近づかなかった」そうです。

近年はエメラルドグリーンの池が観光ガイドでも紹介されて、多くの観光客がやってくるようになり、池のほとりには近づけないようにロープも張られています。池はご神体なので、ルールを守って静かに眺めるだけにしてください。