記事011 鳥海山の豊かな水を巡る~その2=釜磯海岸の湧水
月光川(がっこうがわ)蒸留所のウイスキーの出発点ともいえる美味しい水とつながる鳥海山麓の湧水や滝、渓谷や池など豊かな水を訪ね歩いてみたいと思います。第二弾は「釜磯海岸の湧水」です。
今も活火山である鳥海山は約70万年前に噴火が始まり、これまでに数千回の噴火を繰り返してきました。一番最近の大きな噴火は1801年、小規模な噴火は1974年に記録されています。鳥海山の標高が東北地方で2番目に高く、広いすそ野を持つのは、繰り返してきた噴火で流出した溶岩が重なり合っているためです。溶岩は冷えて固まる過程で無数の空隙を作るため、降った雨や雪はその隙間に吸い込まれて、そのほとんどが伏流水や地下水となって平地にある溶岩の先端から湧き水として出てきます。
ところが、鳥海山の西側の斜面は溶岩が海岸線にまで達しているため、伏流水の多くは地表に現れないまま、海の中に湧出しています。月光川の河口があるJR吹浦駅から北に秋田県境を越えたJR小砂川駅までの間に川が一本もないのはこうした理由だからだそうです。そんな溶岩でできた海岸線に海岸ぎりぎりに水が湧きだすスポットがあります。月光川の河口を少し北に行ったところにある釜磯海岸です。

こぢんまりとした砂浜で、夏場には海水浴場として賑わいます。駐車場に車を止めて、海岸へ降りていくと、ちょっと違和感を覚えました。波打ち際からは結構離れている砂浜が晴れていたにも関わらず、雨が降ったかのようにそこかしこが黒々と濡れていて、水たまりができていました。近づいて、目を凝らしてみると、砂浜が小さな崖のように段差ができている根元からじくじくと水が湧いているのです。その水はちょろちょろと砂の上を流れながら、不思議な白黒の模様を描いています。やがて細かな水流が合わさって波打ち際で海にのみ込まれていきました。

さらに、足を進めると、同心円状の水紋が広がる丸い円状の水たまりが各所にありました。よく見ると円の中央部分から水が噴き出していて、砂を押し上げて、わずかな円い丘を作っています。有名温泉地でよく見かける“地獄”のような光景ですが、こちらは超冷泉です。手を差し込むと驚くほど冷たくて、びっくりします。温度計で計ってみると10度ほど。一年を通じて変わらないそうです。ほんの少しだけ口にしても、しょっぱさはなく、淡水であることがわかりました。まさに、鳥海山に降った雪と雨が数十年かけて流れてきた水なのです。手を突っ込んでみると小さな円にも関わらず、意外と深くて30~50㌢もありました。

現地に足を運んだ日は、地元の中学生が社会科見学で先生に連れられてやってきていて、湧き出す場所に裸足になって入って、はしゃいでいました。また、湧水が作る白黒の模様は、黒い部分が砂鉄だそうで、磁石を用意してきた子供たちが砂鉄を回収して、興味深そうに覗いていました。海岸に真水の湧水がこれだけの規模で存在するのは日本でも珍しいそうで、いかに鳥海山が豊かな水を育む霊峰であるのかを実感する場所です。一見の価値があります。