2026年2月 記事009 酵母培養の現場に迫る

ウイスキーを造る工程を単純に分けると「麦芽を原料にアルコールを発酵させて醪を造る」→「醪を2回蒸留してウイスキー原酒を造る」→「樽に詰めて貯蔵する」になりますが、その第一工程の発酵の時に欠かせないのが酵母です。麦芽の糖化酵素によって、大麦のでんぷんが糖になり、糖を酵母が栄養源にしてアルコールを造ります。

使う酵母は輸入されてきますが、水分を飛ばした乾燥酵母と水分を含んだペースト状のプレス酵母の二種類があります。さらには、乾燥酵母をあらかじめ別途自社の蒸留所内で培養して酵母数を増やしてから発酵に使う手法もあり、それぞれの蒸留所が自分たちの造りたい味わいに近づけるためにこれらの中からいろいろ組み合わせているそうです。

月光川蒸留所は操業を始めた当初は二種類の乾燥酵母を選んで発酵を始めました。操業が軌道に乗ったら、酵母培養も始める予定でいたそうで、実際には操業から半年経過してから乾燥酵母の自社培養を始めています。そして、いろいろな酵母を試してみて、現在は乾燥酵母を二種類、培養酵母を一種類、という組み合わせを採用しています。

その酵母培養の現場を見学してきました。糖化発酵室には粉砕した麦芽にお湯を入れて糖化するマッシュタン、糖化が完了したマッシュと酵母を混ぜてアルコール発酵を促す発酵タンクが並んでいて、これらが部屋の主役ですが、その発酵タンクの脇に二回りは小さなタンクがあります。これが酵母培養タンクです。この日もミツヤスさんが空っぽになったタンクで酵母培養を始めていました。

まず、甘い麦汁とお湯を混ぜて培養に最適な糖度にします。その後、煮沸・冷却をして培養環境が整ったら乾燥酵母を入れます。酵母は空気(酸素)がなくてもアルコール発酵をしますが、酵母自身の増殖のためには空気が必要なので、ずっとタンクに空気を送り込んで、30~31度の品温を維持して増殖させていきます。そして、およそ20時間後に酵母の数が数倍になって完成するので、翌日朝の仕込みで発酵タンクへと移っていきます。

3種類の酵母を使うことの意味について、ミツヤスさんは「酵母はアルコール発酵を担うだけでなく、それ以外の成分もたくさん作ります。それが酵母によって違うので、3種類使えばそれだけ味わいに複雑味が出てくるわけです。これが蒸留後の原酒の味わいにも繋がります」と話しています。

最初の3年間はいろいろなことに挑戦する期間だと社長にも言われているそうで、現在も酵母選びは終わりではなく、「ラガービールに使う酵母で試したこともあります。さらに別の酵母では味わいがラズベリーっぽくなったものの、皆でうちの味じゃないねと笑い合いました。最近は、もう少し味に厚みが欲しくなってきて、そのためには培養時間を24時間以上にしたらどうかという意見が出て、やってみることにしました。ただ、これを採用するには培養タンクがもう1本必要になるので、難しい判断になるかもしれません」(ミツヤスさん)。理想の酵母探しの試みはまだまだ続くようです。