2026年1月 記事008 ハイブリッド樽の製作現場探訪

2023年秋にウイスキー造りを始めた月光川(がっこうがわ)蒸留所では、ウイスキー原酒を詰める樽に、主に海外から入ってくるバーボン樽やシェリー樽を使いますが、ほかにも赤ワインに使われた樽や、国産のミズナラ樽なども使っています。加えて、他の蒸留所にはないユニークな樽が「ハイブリッド樽」と呼ばれるもの。
樽の上下の丸い板を鏡板と言うそうですが、バーボン樽の鏡板の部分を取り外し、代わりに国産の新品のミズナラで作った鏡板をはめ込んで、複合材による樽に仕上げたものです。
これを作って、月光川蒸留所に収めているのが、山形県酒田市にある株式会社エコーさんです。その製作現場を見学させていただきました。

酒田市の市街地の南のはずれ。
目の前に最上川の堤防が見える場所にエコーさんの本社工場がありました。木材を加工している建物に入ると、高い天井に響き渡るように木を削る音が耳に入ってきます。削ったばかりの木の匂いを嗅ぎながら奥にいくと、ハイブリッド樽を作っている最中でした。
鏡板が外された年季の入ったバーボン樽が置かれていて、そこに真新しいミズナラ材の鏡板が乗せられるところでした。鏡板の裏側は焦がされて真っ黒です。
「この新しい鏡板を隙間にガマの葉を挟み込んで漏れがないようにしてはめ込めば完成です」とエコーの児玉健一社長が直々に説明してくださいました。
鏡板をよく見ると、数枚のミズナラの板を木ダボという木の棒で繋ぎ合わせ、それから円形に削って仕上げています。精巧にできているのに感心していると、「これを完璧に加工するには高性能の工作機械が必要で、ここから車で20分の山形県工業技術センターに持ち込んで加工してもらっています」(児玉社長)。

使用済みのバーボン樽の鏡板だけミズナラに替えるという「ハイブリッド樽」を作ることになったいきさつを児玉社長は次のように話してくださいました。
「私の夢は世界に輸出できる家具を作ることでしたが、海外には強力なライバルがいて叶わないことがわかり、それなら樽はどうだろうと考えました。日本には欧州にはないミズナラという木があるのでこれを活用しよう。ただし、ミズナラは小径木なので、樽に丸ごと使って、大量生産するのには向かない。ならば、使用済みのバーボン樽の鏡板だけにミズナラを使って、ハイブリッド樽にしたらよいのではないかと考えました」(児玉さん)。

いざ、やってみようとなったところで次の課題はミズナラの木の確保でした。山形県の林業関係者に調べてもらったところ、ミズナラは各所に点在しているものの、ナラ枯れが深刻でほとんどの板に虫が入っているとのことでした。このため、探す範囲を隣県にも広げたところ、秋田県南部地域で結構な量の良質なミズナラが見つかり、そこから仕入れることになりました。
ハイブリッド樽を作れる見通しが立ったものの、次の課題は売り先でした。海外にも発信したものの納入実績がないことから不調であったところに月光川蒸留所から声がかかったのだそうです。
「最初に6樽の注文があり、嬉しかったですね。その後も追加注文をいただいているので、国内のウイスキー向けの樽は月光川さんだけに作ります。あとは輸出に力をいれたり、焼酎蔵などの他の蒸留酒向けに売り込んでいきたい」と児玉社長は話していました。

月光川蒸留所の長谷川千浩ディスティラリー・マネージャーは「東北産のミズナラを使った地元製作のハイブリッド樽と聞いて、すぐに面白いと直感しました。樽に詰めて2年ほどが過ぎていますが、バーボン樽とミズナラ樽、ハイブリッド樽でいずれも原酒の個性が違ってきています。バーボンとミズナラの中間の味わいが見事に表現できていて驚いています。唯一無二のウイスキーが出来上がりそうで、いまからめちゃくちゃ楽しみです」と話していました。
早く、3つの樽で熟成されたウイスキーの飲み比べがしたいものです。