2025年12月 記事006 理想の初留を極める現場

月光川(がっこうがわ)蒸留所で日々ウイスキー造りに取り組む職人たちは理想のウイスキーを求めて、日々地道な作業を繰り返しています。作業の細部にこだわりを持ち、手間暇を惜しまず、より美味しいウイスキーを造るために工夫を重ねる職人たちの仕事ぶりを細かく学ばせてもらいます。今回は蒸留の前工程である初留の作業です。

麦芽を糖化し、そこに酵母を加えて発酵させ、アルコール分8%前後の液体を造るのが発酵作業です。その作業が終わった醪を蒸留器にかけて沸騰させ、出てきた蒸気を冷やしてアルコールの原液を造ります。蒸留は一度では完了せず、2回繰り返します。その1回目が初留です。

この日は蒸留担当のユウスケさんの仕事ぶりを見ました。朝礼が済んだあと、彼が真っ先に向かったのが糖化発酵室のタンクです。蓋をあけて覗いてみると、5日かかった発酵は終わっていて、麦芽粕は沈殿していて、琥珀色に輝く上澄みが見えました。ユウスケさんは櫂でぐるぐるとかき回します。「全体を均一にしてから蒸留器に送ります」。それから下におりて、タンクのバルブを回し、蒸留器への送り出しが始まりました。


送り出しが完了すると蒸留器の内部にある管を蒸気が通過して、醪を加熱します。最初は蒸気を全開して醪の温度をどんどん上げていきます。しばらくすると、蒸留器の内部の様子が観察できる丸い窓ごしにクリーム色の泡が沸き上がってくるのがわかります。蒸留器の上部のヘッドにはガラスののぞき窓が3つついていますが、これは泡の上昇をチェックするためにあるんですね。だから、二度目の蒸留に使う蒸留器には窓がありません。月光川蒸留所では下から1窓(いちまど)、2窓、3窓と呼んでいて、3窓に泡がちらりと見えると、ユウスケさんが素早く蒸気圧を一気に落として、泡を下げて、蒸留が本格的に始まりました。蒸留器全体が熱を発し続け、部屋はむっとする空気に変わっていきます。

エタノールの沸点は80度なので、蒸留器の内部の温度は80度で横ばいになります。蒸発したエタノールはネックにぶつかってアームへと流れ、冷却水が通るコンデンサー部分で冷やされて液体になり、スピリッツセイフ(検度器)の蛇口から透明の蒸留液が出てきました。蒸気を入れてから40分後でした。アルコール度数は最初50%ありますが、じわじわと下がっていって、蒸留終了時には2%になるそうです。蛇口から出てきた液体を「利き酒しないんですか?」と問うと、「利き酒は再留の時に、樽詰めに送れるかどうかを判断するためで、初留は全量再留工程に行くのでしません」と笑われました。

初留を終えた液体にはアルコールのほかにも醪にあったいろいろな成分が混じっています。気化した蒸気を冷却・液化するスピードによってその成分が違ってくるそうで、このため、蛇口を出てきた蒸留液の温度は20度未満になるようにしています。「でも、最近、もう少し高くてもいいのかなとの議論もあります。25度に近づける試みもしようと思っています」とユウスケさんは話していました。初留といえども、奥が深いんですね。